軟部外科
【猫】「停留睾丸」とは?|当院のCT検査による安全な去勢手術
先日、ワンちゃんの停留睾丸についての症例報告を掲載いたしましたが、当院では、猫ちゃんの停留睾丸(潜在精巣)についても、CT検査を活用した安全で負担の少ない手術を積極的に実施しております。
今回は、太ももの付け根(鼠径部)に睾丸が留まっていた猫ちゃんの症例報告とともに、猫の停留睾丸の特徴とリスクについて解説します。
1. 停留睾丸(潜在精巣)とは?
オス猫の睾丸は、通常生後2か月頃までに陰嚢(いんのう:ペニスの付け根にある袋)の中に降りてきます。しかし、なんらかの理由で片方または両方の睾丸が陰嚢まで降りてこず、お腹の中や太ももの付け根(鼠径部)の皮下などに留まってしまうことがあります。これを「停留睾丸(ていりゅうこうがん)」または「潜在精巣(せんざいせいそう)」と呼びます。
【猫の停留睾丸の特徴】
停留睾丸は犬に比べると発生頻度は低い(約1~3%)とされていますが、遺伝的な要因が主な原因と考えられています。特定の品種(アビシニアン、ペルシャ、ヒマラヤンなど)で発生しやすい傾向が報告されています。
また、猫の停留睾丸は正常な睾丸よりも著しく小さく(通常サイズの1/2〜1/3程度に萎縮)、触診での特定が非常に難しいのが大きな特徴です。この小ささが、手術における難易度を高める要因となります。遺伝性の病気であるため、停留睾丸と診断された猫ちゃんを繁殖に利用することは推奨されていません。
2. 停留睾丸を放置しておくとどうなるの?
停留睾丸を放置しておくことは、愛猫の命を危険にさらす可能性があります。
腫瘍化のリスク
精子を正常に形成するためには、体温より低い温度が必要です。そのため、正常な睾丸は体外の陰嚢に収められています。
しかし、停留睾丸は体内に留まっているため、常に高い体温にさらされ続けます。この熱ストレスにより睾丸の細胞に悪影響が及び、細胞分裂の異常を引き起こすため、将来的に腫瘍化(精巣腫瘍)するリスクが、正常な睾丸に比べて格段に高くなることが知られています。
精巣捻転のリスク
また、まれに「精巣捻転」を起こすこともあります。これは、停留した睾丸がねじれてしまう病気で、激しい痛みを伴う緊急疾患であり、すぐに摘出手術が必要です。
愛猫の健康と安全のため、停留睾丸と診断された場合は、去勢手術と同時に摘出することをおすすめします。また、停留睾丸であっても男性ホルモンは分泌されるため、スプレー行動やマーキングなどの問題行動が続く可能性があることにも注意が必要です。
性行動の継続(問題行動のリスク)
停留睾丸であっても男性ホルモン(テストステロン)の分泌は続くため、マーキング(スプレー行動)、攻撃性、放浪癖といった性行動を伴う問題行動が抑制されない可能性が高いです。愛猫の健康と安全、そして快適な家庭生活のため、停留睾丸と診断された場合は、去勢手術と同時に摘出することをおすすめします。
3. 停留睾丸の検査方法とCT検査のメリット
陰嚢内に睾丸が触れない場合、超音波検査(エコー)やレントゲン検査でお腹の中や太ももの付け根を検査します。しかし、これらの検査だけでは、停留睾丸の正確な位置を特定するのが難しいことも少なくありません。
特に猫の場合、停留睾丸は非常に小さく萎縮しており、太ももの付け根などの皮下脂肪に隠れてしまうと、熟練した獣医師による触診やエコー検査でも正確な位置を見極めるのが極めて困難です。この「見つけにくさ」が、手術の切開範囲を広げ、動物への負担を大きくしてしまう最大の要因となります。
当院の「CT検査」が、愛猫の負担を劇的に減らします
そこで当院では、より安全で確実な手術を行うために、CT検査を強くおすすめしています。
CT検査は、360度から体の内部を撮影し、停留睾丸の位置をミリ単位で正確に特定することができます。これにより、手術でどこを切開すればいいかが事前に分かり、必要最小限の切開(低侵襲)で睾丸を摘出することが可能になります。
切開範囲が少ないことは、愛猫の術後の痛みや体への負担を大きく軽減することに繋がります。

4. 当院の停留睾丸手術事例【猫・鼠径部皮下停留】
症例:オス猫
-
症状: 右の睾丸は陰嚢内にありますが、左の睾丸が陰嚢内に触れません。
-
触診・エコー所見: 右の睾丸は太ももの付け根あたり(鼠径部皮下)に触れましたが、非常に小さく、正確な位置の特定が困難でした。
CT検査による正確な位置特定
この猫ちゃんに対し、安全性を高めるため術前にCT検査を実施しました。
本来あるべき場所に、左睾丸がありません。


CT画像を細かくチェックしたところ、左の睾丸は太ももの付け根の皮下(鼠径部皮下)に留まっており、周辺組織との位置関係を正確に把握することができました。


最小限の切開でスムーズな手術
CT検査で得られた正確な情報をもとに、停留睾丸の位置をピンポイントで狙い、最小限の切開で摘出を行いました。
黒丸が左睾丸がある場所です。

手術はスムーズに進み、術後の経過も良好で、猫ちゃんは元気に退院しました。
5. 当院の避妊・去勢手術の流れについて
STEP1:術前検査
手術は全身麻酔をかけるため、事前に術前検査を実施します。 内臓などに問題がないか、血液検査やレントゲン検査を行います。特に麻酔の代謝に関わる「腎臓」「肝臓」に異常がないかを確認し、問題がない子のみ手術を実施します。※停留睾丸の子は必要に応じてCT検査を行います。
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STEP2:手術前の準備
ご自宅で、手術の前日から準備をしていただきます。
・前日の夜9時以降は何も食べさせないでください。
・当日の朝8時以降は、お水も飲ませないでください。
これは、麻酔中に動物が吐いてしまった際に、吐しゃ物を呼吸と一緒に吸い込んでしまい、肺炎や窒息死を招く恐れがあるためです。絶食・絶水ができなかった場合は、安全のため手術を延期します。
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STEP3:手術当日
午前中にご来院いただき、お預かりします。手術は午後から実施し、当日の状況により前後しますが、手術時間は約20〜45分です。
手術は、万全を期していても予想しないことが起こることがあります。手術中は緊急連絡が取れるようにご準備をお願いします。
お迎えは当日の17時から19時頃にお越しください。
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STEP4:手術翌日以降
手術翌日に貧血や傷口の確認のためご来院いただきます。
当院の避妊・去勢主手術の特徴
1. 充実の人員配置
当院では、執刀医、手術助手、器具出し、麻酔管理など、最大5人体制で手術にあたっております。これにより、トラブルの未然防止と、万が一の事態にも迅速に対応することが可能です。
2. 最新設備の導入
当院では最新設備を導入しています。例えば電気メスで、糸を使わずに血管をシーリングすることができ、手術時間が短縮されます。手術時間の短縮は、動物の体にかかる負担を大きく軽減することに繋がります。
最後に
去勢手術は、愛猫の健康を守るための大切な手術です。特に停留睾丸と診断された場合は、将来のリスクを避けるためにも、早めの手術をおすすめします。
当院では、CT検査を有効活用し、愛猫の負担を最小限に抑えた安全な手術をご提案しています。ご不明な点やご不安なことがございましたら、お気軽にご相談ください。
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