軟部外科
【犬】会陰ヘルニア整復術 5歳 チワワ
今回は会陰ヘルニアの整復手術を行った5歳チワワちゃんの症例紹介です。
会陰ヘルニアとは?
会陰ヘルニアとは、肛門の周囲(会陰部)にある筋肉の隙間から、お腹の中の臓器(直腸、小腸、前立腺、膀胱など)や脂肪が飛び出てしまう病気です。
・7~9歳以降に発症が多い
・メスに比較して、オスの方が発症が多い
・去勢していないオスに多い
という傾向にありますが、去勢したオスやメスも発症する可能性はあります。
■発症原因
・遺伝的素因
・骨盤隔膜の構造異常
・ホルモン異常
・神経因性
・慢性便秘
・加齢
などが提唱されていますが、確定的ではありません。
つまり、どの子でも発症する可能性があるということです。
■臨床症状
・会陰部が腫れる
・しぶり腹(便意はあるが出ない)、便秘
・前立腺肥大
・排尿異常(尿失禁、尿が出ないなど)
など
飛び出ている臓器や状態によって症状は異なります。
会陰部の腫れはよく見られる症状です。
■診断
会陰部の腫れは腫瘍の場合もあるため、適切な診断手順によって鑑別が必要になってきます。
①問診
いつから症状が出ているか、など飼い主様からの情報は診断にとても役立ちます。
②視診および触診
会陰部を目で見て、手で触って状態を確認します。
③触診による直腸検査
肛門に指を入れて、直腸の拡張、湾曲、ヘルニア孔の状態を確認します。
④(肛門から造影剤を注入しての)レントゲン検査
より正確に確定診断するために、造影剤を使ってレントゲン検査を行います。
■治療
・便を柔らかくするお薬を飲んで排便を楽にしてあげる
・飼い主様が排便の介助をしてあげる
といった方法もありますが、根本的な解決にはなりません。
そのため、会陰ヘルニアの治療の第一選択は外科手術となります。
会陰ヘルニアの整復術について
会陰ヘルニアの整復術の手術法は多岐にわたります。
・基本的ヘルニア整復術
ヘルニア孔周囲の筋と筋(外肛門括約筋と肛門挙筋、肛門挙筋と尾骨筋、尾骨筋と仙結節靱帯)を縫合します。
初期または軽度~中程度のヘルニア孔の症例に適用可能な術式です。
・内閉鎖筋転位術
内閉鎖筋(坐骨にある筋肉)を坐骨から剥離して、ヘルニア孔周囲の筋と縫合してヘルニア孔を塞ぎます。
ヘルニア孔が大きな症例に適している術式です。
※経過の長い症例で内閉鎖筋も委縮している場合は適応しない方が良い
・浅臀筋転位術
浅臀筋(殿筋の中で最も小さく、最表層にある筋肉)を分離剥離して、ヘルニア孔周囲の筋と縫合してヘルニア孔を塞ぎます。
ヘルニア孔が大きな症例に適している術式です。
神経や血管を損傷する危険性も少ないです。
・半腱様筋筋弁転位術
半腱様筋(太もも後部にある筋肉)を切断して、ヘルニア孔周囲の筋と縫合してヘルニア孔を塞ぎます。
腹側部の重度会陰ヘルニアに有効です。
その他にも、シリコンプレートや医療用メッシュなどの人工物を使ってヘルニア孔を防ぐ術式も広まっています。
成功率の高い術式ではありますが、術後の感染合併、異物反応などに注意が必要です。
会陰ヘルニアの場所や状態によって術式は変わりますが、今回は「浅臀筋転位術」を行いました。
※手術中の写真があるためご注意ください。予めご了承いただいた場合のみお進みください。
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ヘルニア孔を塞ぐ前の写真です。
大きな孔が開いています。
手術後
浅臀筋を活用して孔を塞ぎました。
会陰ヘルニアの整復術は手術して終わりではありません。
会陰部は汚染しやすい場所のため、合併症を起こさないか、術創を舐め壊したり、摩擦などで悪化させないように注意が必要です。
感染予防のために一定期間、抗生物質の投与が必須です。
また、必要に応じて食事管理(食事残渣の少ない食事にするなど)や術創の消毒などを行っていきます。
当院ではアフターフォローまでしっかりと行っていきます。
会陰ヘルニアはひどくなる前に手術することで、手術の成功率を上げ、再発率を下げることに繋がります。
少しでも気になることがありましたら、動物病院に相談してください!
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