心臓病
【犬猫】DORV(両大血管右室起始)とは?先天性心疾患と多血症の関係
循環器専門外来の獣医師 見上です。
若いワンちゃんやネコちゃんで、
-
元気がない
-
チアノーゼ(舌や歯ぐきが紫色になる)
-
神経症状(ふらつき・けいれん)
このような症状がある場合、先天性心疾患による低酸素状態が関係していることがあります。
その原因の一つが、DORV(両大血管右室起始)という生まれつきの心臓の構造異常です。DORV(両大血管右室起始)では、心臓から出る2本の大きな血管の位置に異常があり、血液の流れ方によっては、酸素の少ない血液が全身に送られてしまいます。低酸素状態が長く続くと、体は酸素を運ぶために赤血球を増やそうとします。その結果、血液が濃くなる「二次性多血症」を引き起こすことがあります。
今回は、実際に私が経験した犬の症例をもとに、DORV(両大血管右室起始)と多血症の関係、症状、検査・治療について分かりやすく解説します。
症例紹介|運動すると疲れやすく、ふらつきが見られた犬
症例
-
動物種:犬
-
年齢:若齢
-
主訴:運動不耐性(運動すると疲れやすい)・時々ふらつく
検査所見
身体検査
-
粘膜:軽度チアノーゼ
血液検査
-
ヘマトクリット(PCV):65%以上(著明高値)
※ヘマトクリットとは、血液全体に占める赤血球の割合を示す数値です。高値の場合、赤血球が増えて血液が濃くなっている可能性があります。
心エコー検査
-
両大血管が右心室から起始
-
心室中隔欠損(VSD)あり
-
右→左シャントを確認
これらの検査結果から、DORV(両大血管右室起始)に伴う低酸素血症によって、二次性多血症が起きている状態と考えられました。
DORV(両大血管右室起始)とは?
DORV(両大血管右室起始)は、生まれつき心臓の構造に異常がある「先天性心疾患」の一つです。
正常な心臓の構造
通常、心臓から出る2本の大きな血管は、それぞれ異なる心室につながっています。
-
大動脈 → 左心室:酸素を多く含む血液を全身へ送る
-
肺動脈 → 右心室:酸素の少ない血液を肺へ送る
この仕組みによって、肺で酸素を取り込んだ血液が全身に届けられます。
DORV(両大血管右室起始)の場合
DORV(両大血管右室起始)では、大動脈と肺動脈の両方が、主に右心室から出る構造になっています。また、多くの場合、左右の心室を隔てる壁に穴が開く「心室中隔欠損(VSD)」を伴います。そのため、心臓内で血液が混ざり、血液の流れ方によっては、酸素の少ない血液が全身へ送られてしまいます。これが慢性的な低酸素状態につながります。
ただし、DORVにはさまざまなタイプがあり、すべての症例で低酸素状態や多血症が起こるわけではありません。心室中隔欠損の位置や肺動脈への血液の流れ方などによって、症状や重症度が異なります。
なぜ心臓病で多血症になるのか?
多血症とは、赤血球が増加し、血液中の赤血球の割合が高くなった状態です。DORV(両大血管右室起始)などの先天性心疾患によって慢性的な低酸素状態になると、体は「酸素を運べる量を増やそう」として反応します。
その仕組みは、次のとおりです。
① 心臓の構造異常によって低酸素状態になる
酸素の少ない血液が全身に送られ、体内の酸素が不足します。
↓
② エリスロポエチン(EPO)が増える
主に腎臓から、赤血球の産生を促すホルモン「エリスロポエチン」が分泌されます。
↓
③ 赤血球が増える
↓
④ 血液が濃くなる(二次性多血症)
赤血球が増えすぎると血液の粘り気が強くなり、血液の流れに悪影響を及ぼすことがあります。
つまり、多血症は単に血液の異常というだけでなく、酸素不足を補おうとする体の反応でもあります。
多血症によって起こる問題とは?
① 血液粘稠度の上昇
赤血球が増えすぎると血液の粘り気(粘稠度)が高くなり、細い血管を流れにくくなります。その結果、脳をはじめとする臓器への血流に影響が出ることがあります。
② 血栓などの循環障害
血液の流れが悪くなることで、血栓などの循環障害が問題となる場合があります。ただし、血栓の危険性は病態によって異なり、多血症があるからといって必ず血栓ができるわけではありません。
③ 神経症状
脳への血流や酸素供給に影響が及ぶと、
-
ふらつき
-
けいれん
-
失神
などの症状が現れることがあります。こうした症状は、血液の粘稠度の上昇だけでなく、低酸素状態そのものによって起こる場合もあります。
DORV(両大血管右室起始)や多血症はどのような検査で分かる?
DORV(両大血管右室起始)に伴う多血症を疑う場合には、血液検査と心臓の検査を組み合わせて評価します。
血液検査(PCV=ヘマトクリット)
赤血球の割合を調べ、多血症の程度を確認します。ただし、PCV(ヘマトクリット)が高い原因には脱水などもあるため、数値だけで先天性心疾患による多血症と判断することはできません。
心エコー検査
心臓の構造や血液の流れを確認する重要な検査です。DORV(両大血管右室起始)では、大動脈と肺動脈の位置、心室中隔欠損の有無、シャントの方向などを評価します。
酸素化の評価
必要に応じて血液中の酸素の状態を確認し、低酸素状態の程度を評価します。
多血症が見つかった場合には、血液の異常だけでなく、その原因となる心臓病などがないか調べることが大切です。
科学的エビデンス|先天性心疾患と多血症の関係
① 右→左シャント疾患と多血症
先天性心疾患のうち、酸素の少ない血液が肺を十分に通らず全身へ流れる「右→左シャント」を伴う病気では、慢性的な低酸素状態から二次性多血症が起こることが知られています。これはDORV(両大血管右室起始)に限らず、ファロー四徴症などの先天性心疾患でも見られる病態です。
② PCVの数値と症状の関係
多血症の程度を評価する際には、PCV(ヘマトクリット)が重要な指標になります。一般に、PCV(ヘマトクリット)が60%を超えるような著しい赤血球増加では、血液の粘稠度上昇に伴う症状が問題となることがあります。ただし、「PCV(ヘマトクリット)が65%以上なら必ず治療する」という一律の基準ではありません。先天性心疾患による多血症では、赤血球の増加が低酸素状態を補う役割も担っているため、PCV(ヘマトクリット)の数値だけでなく、症状や全身状態を踏まえて治療を判断します。
③ 治療の効果
適切な管理によって、
-
神経症状の改善
-
血液粘稠度のコントロール
-
生活の質(QOL)の維持
などが期待できます。ただし、治療の効果や長期的な経過は、心臓の構造異常や低酸素状態の程度によって異なります。
DORV(両大血管右室起始)に伴う多血症の治療方法
① 対症療法(中心)
瀉血(しゃけつ)
血液を一定量抜くことで、赤血球の割合を減らし、血液の粘稠度を下げる治療です。
-
比較的速やかな効果が期待できる
-
血液粘稠度の上昇による症状の改善に役立つ
ただし、赤血球は酸素を運ぶ役割もあるため、過度に減らすと低酸素状態を悪化させる可能性があります。そのため、PCV(ヘマトクリット)や症状を確認しながら、慎重に実施する必要があります。
輸液
脱水がある場合などには、輸液によって循環状態を整えることがあります。ただし、輸液は赤血球の増加そのものを解消する治療ではなく、心臓の状態によっては慎重な判断が必要です。
② 薬物療法
症例によっては、血液粘稠度の管理を目的とした薬物療法などを検討する場合があります。また、血栓予防を目的とした抗血小板薬についても、必要性を個別に判断します。すべての多血症の症例に、抗血小板薬が必要になるわけではありません。
③ 根治療法
DORV(両大血管右室起始)そのものに対しては、心臓の構造異常を修復する外科手術が治療の選択肢となる場合があります。ただし、DORV(両大血管右室起始)は複雑な先天性心疾患であり、手術方法や適応は心臓の構造によって大きく異なります。動物医療では実施可能な施設が限られるため、実際には症状や多血症を管理しながら経過を見ていくケースもあります。
飼い主様に知っておいてほしいポイント
注意すべき症状
-
舌や歯ぐきが紫色になる
-
少し動いただけですぐ疲れる
-
ふらつく
-
けいれんや失神が起こる
こうした症状がある場合は、心臓の病気や低酸素状態が関係している可能性があります。特に、意識を失う、呼吸が苦しそう、チアノーゼが強い場合には、速やかに動物病院を受診してください。
多血症は「結果」であることも
DORV(両大血管右室起始)に伴う多血症は、心臓の構造異常によって起こる低酸素状態が原因です。そのため、血液検査の数値だけでなく、なぜ多血症が起きているのかを調べることが重要です。
定期的な管理が重要
先天性心疾患による多血症では、継続的な管理が必要になることがあります。
-
血液検査によるPCV(ヘマトクリット)の確認
-
心エコー検査による心臓の状態の評価
-
症状に応じた瀉血などの治療
こうした検査・治療を組み合わせながら、その子に合った管理を続けていきます。
よくある質問(Q&A)
Q. DORV(両大血管右室起始)は犬や猫にも起こる病気ですか?
はい。DORV(両大血管右室起始)は犬や猫でも報告されている先天性心疾患です。ただし、比較的まれな病気であり、詳しい発症頻度は明らかになっていません。
Q. 多血症と診断されたら、必ず瀉血が必要ですか?
いいえ。必ずしも必要ではありません。特に低酸素状態に伴う二次性多血症では、赤血球が増えること自体が体の代償反応でもあります。PCVの数値だけでなく、ふらつきや失神などの症状、全身状態を踏まえて判断します。
Q. DORV(両大血管右室起始)は治る病気ですか?
DORV(両大血管右室起始)は生まれつきの心臓の構造異常であり、薬だけで構造そのものを正常に戻すことはできません。外科的な修復が検討される場合もありますが、実施できる施設や適応は限られます。一方で、症状や多血症を適切に管理することで、生活の質を維持できる可能性があります。
当院の考え方
当院では、
-
チアノーゼを伴う症例
-
若齢での多血症
を認めた場合、先天性心疾患の可能性を考え、詳しい検査を行います。特に、多血症が認められた場合には、血液検査の数値だけで判断するのではなく、心エコー検査などを通じて、その原因となる心臓の構造異常や血液の流れを確認することを大切にしています。
まとめ
-
DORV(両大血管右室起始)は、大動脈と肺動脈の両方が主に右心室から出る先天性の複雑心疾患
-
血液の流れ方によっては、慢性的な低酸素状態が起こる
-
低酸素状態が続くと、赤血球が増加して二次性多血症を引き起こすことがある
-
多血症によって血液の粘稠度が高くなると、ふらつきや失神などの症状につながる
-
適切な検査と継続的な管理が重要
最後に
多血症は、放置すると神経症状や循環障害につながる可能性があります。しかし、適切に管理することで、生活の質を保てる場合もあります。若いワンちゃんやネコちゃんであっても、元気がない、すぐ疲れる、ふらつくなどの症状が見られる場合には、先天性心疾患が隠れている可能性があります。気になる症状があれば、早めにご相談ください。
【当院からのお知らせ】
当院では、心臓の精密検査(レントゲン・心エコー等)に基づいた正確なステージ診断を行っております。「心臓の状態を詳しく知りたい」「お薬のタイミングを相談したい」という飼い主様は、お気軽に当院までご相談ください。
◆ 毎月4日間、循環器専門外来を実施しています。
◆ 完全予約制です。事前にご予約をお願い致します。
カテゴリ|心臓病
- 【犬猫】DORV(両大血管右室起始)とは?先天性心疾患と多血症の関係
- 【犬猫】WPW症候群とは?突然の頻脈を引き起こす不整脈
- 大型犬に多い「拡張型心筋症(DCM)」とは? ― 症状が出る前に知っておきたい心臓検査のタイミング ―
- グレインフリーのドッグフードは心臓病の原因になる? ― 拡張型心筋症(DCM)との関係 ―
- 犬・猫の抗がん剤治療で心臓チェックが必要な理由
- 猫の血栓塞栓症と再灌流障害
- 犬が突然倒れた…それはてんかん?それとも心臓の失神?
- 猫の「proBNP」が高いと言われたら -心エコー検査をおすすめする理由-
- 心雑音があるだけでピモベンダンを始めたほうがいいの?【獣医師が解説する「開始時期」の正解】
- 点滴で犬猫の心不全が悪化する?——知っておきたい「水のコントロール」
- セカンドオピニオンで見つかる「先天性心疾患の誤診」
- 犬の肺高血圧症、実は「歯石・歯周病」から始まることも
- 僧帽弁閉鎖不全症の新しいリスク評価法「MINEスコア2」
- 【犬猫】「呼吸が速い」は要注意?安静時呼吸数チェックで心臓病・呼吸器疾患を早期発見
- 【犬】忍び寄る心臓病(僧帽弁閉鎖不全症)と「早期発見」の重要性
- 【猫】心臓病(肥大型心筋症)と「早期発見」の大切さ
- 【犬】心嚢水(心タンポナーデ)の心膜切除術 11歳ラブラドール
- 【犬・猫】循環器外来で発見した希少な3症例
- 循環器外来
- 【犬】心タンポナーデ(心臓病)
