心臓病
犬・猫の抗がん剤治療で心臓チェックが必要な理由
循環器専門外来の獣医師 見上です。
抗がん剤治療は、がんと向き合ううえで非常に重要な選択です。
その一方で、すべての動物が同じリスクで治療を受けているわけではありません。
特に一部の抗がん剤では、心臓に負担がかかる(心毒性)ことが知られています。
また、もともと心臓に問題を抱えている場合、抗がん剤治療によって心不全や不整脈が顕在化することもあります。
そのため、以下に当てはまる動物では、治療前・治療中の心臓チェックが強く推奨されます。
心臓チェックが推奨されるケース
① 中高齢の犬・猫
年齢を重ねると、
-
心筋の予備能低下
-
潜在的な心疾患の存在
-
回復力の低下
が起こりやすくなります。
症状がなくても、心機能がギリギリ保たれているケースは少なくありません。
そこに抗がん剤の負荷が加わることで、一気に心不全が顕在化することがあります。
特にシニア期では、「元気そうに見えても、心臓には負担が蓄積している」ケースが珍しくありません。
② 心雑音を指摘されたことがある動物
「軽いから大丈夫」「年齢相応ですね」
と言われていても、抗がん剤治療下では話が変わります。
心雑音の背景に、
-
弁膜疾患
-
心筋疾患
-
心拡大
などが隠れていることもあり、ベースライン評価なしで治療を進めることはリスクになる場合があります。
特に犬では、僧帽弁閉鎖不全症(MMVD)が隠れているケースも少なくありません。
③ もともと心疾患がある動物
-
僧帽弁閉鎖不全症(MMVD)
-
肥大型心筋症(HCM)
-
拡張型心筋症(DCM)
-
不整脈の既往
これらがある場合、抗がん剤による心機能低下が重なることで、急激に状態が悪化する可能性があります。
この場合、心臓チェックは「念のため」ではなく、治療を安全に行うための重要な管理項目になります。
④ ドキソルビシンなど「心毒性」が知られている抗がん剤を使う場合
一部の抗がん剤(代表例:ドキソルビシン)は、
-
累積投与量に依存して
-
心筋障害を起こす可能性
が知られています。
特に、
-
高齢動物
-
小型犬
-
既往心疾患がある症例
では注意が必要になることがあります。
このような薬剤を使用する場合、
-
治療開始前
-
治療中(定期的)
-
治療終了後
と、段階的な心臓モニタリングを行うことで、治療の安全性を大きく高めることができます。
⑤ 抗がん剤治療中に「元気がない」と感じる動物
以下のような変化は、要注意サインです。
-
以前より疲れやすい
-
散歩を嫌がる
-
呼吸が速い・浅い
-
食欲が落ちた
-
咳が出る
これらは、「抗がん剤の副作用」として見過ごされがちですが、実際には心機能低下の初期症状であることがあります。
「なんとなく元気がない」
その変化が、心臓からのサインである場合もあります。
心臓チェックでは何をするの?
心臓チェックといっても、特別に大変な検査を行うわけではありません。
主に、
-
心エコー検査(心臓の大きさ・動き)
-
心電図検査
-
心筋バイオマーカー検査(症例により)
などを組み合わせて評価します。
これらを行うことで、
-
抗がん剤治療を安全に続けられるか
-
用量調整が必要か
-
心臓治療を併用すべきか
を判断することができます。
飼い主の皆様へ
心臓チェックは、抗がん剤治療をやめるための検査ではありません。
抗がん剤治療を、「できるだけ安全に続けるため」の検査です。
「心臓も一度確認しておこう」
その選択が、重い合併症を未然に防ぐことがあります。
腫瘍治療では、「がんだけを見る」のではなく、全身状態を含めて管理していくことがとても重要です。
まとめ
心臓チェックが特に必要なのは、
-
中高齢の動物
-
心雑音・心疾患がある
-
心毒性のある抗がん剤を使用する
-
治療中に元気消失や呼吸の変化がある
といったケースです。
これらに当てはまる場合は、循環器的な評価を含めたがん治療を検討することが重要です。
抗がん剤治療を安全に継続するためにも、必要に応じて心臓の状態を確認しながら治療を進めていきましょう。
【当院からのお知らせ】
当院では、心臓の精密検査(レントゲン・心エコー等)に基づいた正確なステージ診断を行っております。「心臓の状態を詳しく知りたい」「お薬のタイミングを相談したい」という飼い主様は、お気軽に当院までご相談ください。
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