【犬】橈尺骨骨折の外科手術症例 2kg トイプードル

加古川市 バークレー動物医療センター 院長の山本です。

今回は「撓尺骨骨折」についてご紹介します。

 

■撓尺骨骨折とは?

 橈骨と尺骨は、前足の手首と肘の間の2本の長細い骨で、橈骨、尺骨とも同時に骨折する場合がほとんどです。

 

※参考:犬&猫 カラーアトラス 骨ー関節 外科アプローチ

 

前足にかかる荷重のほとんどは橈骨が支えているため、橈骨と尺骨の骨折治療は、橈骨の治癒が目的になります。

正しい治療が行われないと、障害が残り、うまく歩けなくなる可能性があります。

 

トイプードル、ポメラニアン、ヨークシャテリア、チワワ、イタリアングレーハウンドなどの小型犬は、橈骨・尺骨が非常に細いです。

そのため、少しの衝撃で骨折を引き起こします。

 

 

■撓尺骨骨折の原因

 骨折の原因として多いのは、

・抱っこから落ちる

・ソファーからジャンプする

・転ぶ

・激しい運動

・交通事故

など

 

また、若い時期(4ヶ月齢〜1歳前後)での骨折が非常に多いです。

これは骨が十分に成熟していないことが原因とされています。

 

 

■撓尺骨骨折の症状

 橈骨尺骨が骨折した場合、強い痛みが発生します。

そのため、完全に足を上げたままになり、患肢を地面につけることができなくなります。

触ろうとすると痛がります。

 

また、患部周辺が腫れることがあります。

ただし、毛に覆われていることから、腫れが見えない場合もありますので注意が必要です。

 

外傷による骨折の場合は、皮膚に傷跡や出血が見られることがあります。

 

これらの症状がみられた場合は、早急に動物病院に相談しましょう。

 

 

■治療

 大きく分けて、2つの治療があります。

 

■外固定

ギプス包帯や接合副子(添え物)などにより骨折部位を固定する方法です。ただし、動物は安静にしてもらうことが難しいため、外固定で治療できない場合がほとんどです。そのため、基本的には外科療法を推奨しています。

 

■外科手術

外科手術にも種類があります。その子によって、最も適した術式を選択して手術を行います。当院で主に実施する手術法は以下です。

 

①プレート固定

ずれた骨片同士を元の位置に整復し、金属のプレートとネジで固定する方法です。強固な固定が期待できます。骨の癒合が認められた後、スクリューやプレートを抜去した方が良い場合も少なくないです。抜去する際は、改めて全身麻酔下で手術を行います。

 

②ピン固定

骨は基本的に筒状の形状をしており、周りの硬い骨(皮質骨)と中の柔らかい骨(海綿骨)から構成されています。この海綿骨の部分にピンを入れて安定化させる方法です。交差するように骨にピンを刺して固定する方法をクロスピン法と言います。関節を動かすとピンが皮膚に接触して違和感を引き起こすことが多いため、骨が癒合したらピンを抜去します。抜去する際は、改めて全身麻酔下で手術を行います。

 

③創外固定法

体の外から骨にピンを刺して、体の外の固定具で安定化させる方法です。開放骨折や複雑骨折に適応することが多く、強固な固定が期待できます。皮膚から金属インプラントが露出しているため、外見が悪くなり、また動物にストレスがかかることがあります。

 

 

■術後管理

 骨折は手術して終わりではありません。その後の術後管理がとても大切です。

骨が癒着する前に、激しい運動をしてしまうと、変形癒合(曲がった状態で骨がくっつく)や癒合不全(骨が完全にくっつかない)といった状態を引き起こします。

動物病院の指示に従い、適切な術後管理をしていただく必要があります。

 

 

■症例

今回は3歳のトイプードルの橈尺骨骨折の症例をご紹介します。

2kgという非常に小さいワンちゃんです。

黄色枠で囲んでいる場所が骨折部位です。

 

 

橈骨・尺骨共に骨折していますが、小型犬の尺骨は非常に細いため、橈骨のみ固定治療を行います。

 

当院では、その子に応じて、カスタマイズしたオリジナル手術を行っています。

今回も、ワンちゃんの骨折の状態、骨の太さ、犬の筋骨格の構造、術後の重力負担など様々なことを考慮しながら、最もワンちゃんにとって良い手術を考えました。

 

全てお見せすることはできませんが、皮膚や筋肉の切開の場所や方向、骨折部位を固定する方法、皮膚や筋肉の縫合の仕方や縫合糸、など入念に事前計画を立てて実施しました。

 

 

ちなみに、院長オリジナルのこの手術レシピは、複雑な手術の場合は総製作時間が100時間を超える場合もあります。

寝る間も惜しんで、没頭して制作することも多々。 

 

今回のワンちゃんは骨折部位が足首の根元だったこと、超小型犬で骨が細かったことから、プレート固定ではなく、ピン固定を選びました。

またピン固定の位置も骨の真ん中を通すのではなく、立った時の橈骨にかかる荷重を考慮して少し外側にピンを設置しました。

 

本来だと2本のピンで固定する予定でしたが、骨の状態や太さを考慮して、術中に1本のピン固定に変更しました。

術後のレントゲン写真です。

 

 

無事に骨が癒合するまで、しっかりと状態を管理していきます。

 

 

骨折の疑いがある場合は、様子見をせずに、至急動物病院までご相談ください!

カテゴリ|整形外科

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