心臓病
セカンドオピニオンで見つかる「先天性心疾患の誤診」
循環器専門外来の獣医師 見上です。
― “問題なし”と言われた心雑音の本当の意味 ―
「前の病院では大丈夫と言われたんですけど…」
循環器のセカンドオピニオンを受けに来られる飼い主様から、私たちが最初に聞くことの多い言葉です。そして実際に精密検査をしてみると、動脈管開存症(PDA)や肺動脈狭窄(PS)などの、治療が必要な明確な先天性心疾患が見つかるケースが後を絶ちません。
なぜ、このような「問題なし」という誤診が起こってしまうのでしょうか。
なぜ誤診が起こるのか?
先天性心疾患の誤診は、単に「診察の質」だけでなく、病気そのものの特性や、診断機器・経験値の差など、複合的な要因が関係しています。
| 誤診が起こる主な理由 | 詳細 |
|
1.若齢期には症状が出にくい |
心臓に負担がかかっていても、若い動物は代償機能を持っているため、咳やチアノーゼがなく、外見上は非常に健康に見えます。 |
| 2.雑音が弱く、聴診だけでは判断しづらい | 特に小型犬や猫は心拍数が速く、聴診だけで正確に心雑音の原因を特定するのは困難です。また、呼吸音に埋もれてしまうこともあります。 |
| 3.生理的雑音と勘違いされやすい | 成長期の一時的な雑音(生理的雑音)と勘違いされ、「成長すれば消える」と判断されて経過観察のまま放置されてしまうことがあります。 |
| 4.機材や獣医師の経験の差 | 心エコー機器の解像度や、検査者が先天性疾患の症例をどれだけ経験しているかによって、診断精度が大きく異なってしまいます。 |
実際によくあるセカンドオピニオン症例
当院でセカンドオピニオンから正しい診断に繋がった、代表的な先天性心疾患のケースをご紹介します。
● 動脈管開存症(PDA)
初診では「雑音があるが問題ない」と言われていた子。精密な心エコー検査を行ったところ、心臓の異常な血流(連続的シャントフロー)が明確に確認されました。適切な時期にカテーテルや手術による閉鎖術を行うことで心臓への負担がなくなる「完治」に至った例です。
-
動脈管開存症(PDA)とは?
生まれた後、本来は閉じるべき血管(動脈管)が閉じずに残り、全身へ送るはずの血液が肺に逆流し続けてしまう病気です。
-
なぜ怖い?
心臓と肺に絶えず過剰な負担がかかるため、早期に心不全を引き起こし、そのまま放置すると予後が非常に悪くなります。しかし、早期に手術で閉じれば完治が見込めます。
● 肺動脈狭窄(PS)
軽度の心雑音を指摘されて経過観察が続いていた子。しかし、飼い主様が運動後に時々失神が見られることに気づき、当院を受診。精密検査の結果、実際は中〜高度な狭窄が見られ、カテーテルを使ったバルーン拡張術の適応となり、症状が改善した例です。
-
肺動脈狭窄(PS)とは?
心臓から肺へ血液を送る血管(肺動脈)の出口が生まれつき狭くなっている病気です。
-
なぜ怖い?
狭い出口から血液を押し出すために心臓(右心室)に大きな負担がかかり、心臓の筋肉が異常に厚く(肥大)なってしまいます。重度になると失神や突然死のリスクが高まります。
“元気”=“健康”ではないことを知ってください
若い動物では、心臓に先天的な異常があっても、体全体でそれをカバーしようとする代償機能が働きます。そのため、症状が出るのは病気がかなり進行してからです。
つまり、「元気そうに見える今」こそ、最も病気が見逃されやすい、危険な時期なのです。
先天性心疾患は、症状が出てからでは手術のタイミングを逃してしまったり、心不全が進行してしまったりするケースも多く、早期診断がその子の一生を大きく左右します。
セカンドオピニオンの価値
一次診療で「異常なし」と診断された場合でも、以下のような経験があれば、一度専門的な心エコー検査を受けてみる価値があります。
-
子犬・子猫の頃に心雑音を指摘されたことがある。
-
他院で**「生理的雑音だから様子見」**と言われた。
-
成長後も、他の子より息切れしやすい、疲れやすいと感じる。
-
ご家族に小型犬のチワワ、ポメラニアン、トイプードル、またはボクサーなど、先天性心疾患が多い犬種がいる。
セカンドオピニオンは、決して「前の病院を疑うため」に行うのではありません。より深く病状を理解し、正しい診断を得るための積極的なステップです。
正しい診断は、その子の未来を大きく変える可能性があります。
当院より
臨床の現場では、「もっと早く来ていれば、完治できたのに」というケースが後を絶ちません。
私たちが伝えたいのは、「誤診を責めること」ではなく、「気づくきっかけを増やすこと」です。動物の健康は、見た目の元気さだけでは判断できません。
少しでも心雑音や、お子様の状態に違和感や疑問を感じたら、ぜひセカンドオピニオンという形で確かめてください。私たちは、その子の正しい未来のために、最善の検査と治療をご提案いたします。
