【犬】忍び寄る心臓病(僧帽弁閉鎖不全症)と「早期発見」の重要性

循環器専門外来の獣医師 見上です。

今回は、特にシニア期のワンちゃんに非常に多く見られる心臓病、「僧帽弁閉鎖不全症(そうぼうべんへいさふぜんしょう)(MMVD)」について、専門家の立場からお話ししたいと思います。

 

「年のせいかな?」見過ごされがちな心臓病のサイン

「最近、散歩の途中で座り込むことが増えた」

「寝起きや興奮したときに、咳をするようになった」

 

診察室で僧帽弁閉鎖不全症(MMVD)の診断をお伝えしたとき、多くの飼い主様から、そんな言葉を耳にします。それもそのはず、この病気の初期症状は「咳」や「疲れやすさ」といった、年齢による変化と見分けがつきにくいものがほとんどです。

しかし、その水面下で病気は静かに進行し、ある日突然、激しい咳が止まらない、呼吸が苦しいといった「肺水腫」という命に関わる状態で初めて、はっきりとした姿を現すのです。

私たちは、こうした苦しい事態を一つでも減らしたいと心から願っています。

  

早期発見で守られた、あるワンちゃんのお話

10歳のBちゃんというシーズーのワンちゃん。

Bちゃんは定期的な健康診断の際に、聴診で心臓に小さな雑音が見つかりました。

症状はまだ何もありませんでしたが、念のため心臓の精密検査(心臓エコー検査)に進みました。

 

そこで、まだ症状が出ていない軽度の僧帽弁閉鎖不全症が見つかったのです。

もし検査を受けていなければ、病気に気づかないまま過ごし、「咳」などの症状が出てから治療を始めることになっていたでしょう。

 

しかし、Bちゃんは無症状のうちから心臓の負担を軽くするお薬を始め、生活のアドバイスを守っていただくことで、数年が経った今も、苦しい咳の発作に悩まされることなく、穏やかな毎日を過ごしています。

 

このように「ちょっとした雑音」と思わずに、飼い主様の「念のため」の選択によって、この子の未来は大きく変わりました。

 

犬の心臓病「僧帽弁閉鎖不全症(MMVD)」とは?

 

少し専門的な話になりますが、この病気は心臓の左心房と左心室の間にある「僧帽弁」という扉が、加齢などによって分厚く変形し、うまく閉じなくなってしまう病気です。

扉に隙間ができてしまうことで、本来全身に送り出されるべき血液の一部が逆流してしまいます。

逆流が続くと、心臓は通常より多くの仕事をしなければならなくなり、次第に拡大(心拡大)していきます。そして限界を超えると、血液が肺にまであふれ出し(肺水腫)、呼吸困難を引き起こすのです。

 

 

なぜ「症状のない今」の検査が大切なのか

「咳は出るけど、元気だから大丈夫」が通用しにくいのが、この病気の怖いところです。

症状のないうちに見つけることには、大きなメリットがあります。

 

  • 無症状のうちに発見できれば、進行を遅らせる治療ができる

  • 突然の呼吸困難(肺水腫)や入院のリスクを減らせる

  • 病気と正しく向き合い、穏やかな日常を長く維持できる

 

「症状がひどくなってから」ではなく、「まだ軽いうちに」検査を受けることが、ワンちゃんの未来を守る第一歩です。

 

 

特に検査をおすすめしたいワンちゃん

以下のようなワンちゃんは、僧帽弁閉鎖不全症(MMVD)にかかりやすいことが知られています。

 

【特に注意したい犬種の例】

キャバリア、マルチーズ、シーズー、チワワ、トイ・プードル、ポメラニアン、ヨークシャー・テリア など

ただし、これらの犬種に限らず、特にシニア期(5~6歳以上)の小型犬では一般的に見られる病気です。

 

【一般的な注意点】
  • 咳をすることがある(特に寝起き、興奮時)

  • 散歩や運動ですぐに疲れたり、座り込んだりする

  • 呼吸が速い、息切れしているように見える

 

 

心臓検査の流れ

 1.問診

まずはワンちゃんの普段の様子や気になる症状、既往歴などをお伺いします。
呼吸の状態や運動時の様子も確認します。

 ↓

2.身体検査

聴診器で心音や呼吸音を確認します。
不整脈や雑音がないかチェックします。

 ↓

3.心臓エコー検査(超音波検査)

最も重要な検査で、心臓の壁の厚さや動き、血液の流れをリアルタイムで観察します。
僧帽弁閉鎖不全症の確定診断や重症度の評価に欠かせません。

4.胸部レントゲン検査

心臓が拡大していないか(心拡大)、肺に水が溜まっていないか(肺水腫)など、心臓の大きさや形、肺の状態を評価します。

5.心電図(ECG)検査

心臓の電気的な動きを調べ、不整脈の有無を評価します。

6.血液検査(必要に応じて)

心臓に負担がかかっているかを示す指標(例:NT-proBNP)を調べることもあります。

 

 

最後に

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

ワンちゃんの咳や息切れを「もう年だから仕方ないかな」と感じてしまうのは、ごく自然なことです。

しかし私たちは、そのサインの奥に隠れた心臓の小さな「声(心雑音)」に、聴診器を通して日々耳を澄ましています。

その声は、嬉しそうに駆け寄った後の咳や、少し短くなったお散歩の時間として、日々の生活に現れているのかもしれません。

 

心臓病の治療で最も大切なことは、症状が悪化してから慌てて始めるのではなく、心臓がまだ頑張れるうちに先手を打ってサポートしてあげることです。

これは決して「歳のせい」と諦めるものではありません。

 

愛犬の小さな変化に気づいた時、あるいは少しでも気になった時は、どうぞお一人で悩まず、その「心臓の声」を私たちにも聞かせに来てください。

飼い主様と手を取り合って、愛犬とのかけがえのない時間を守る一助となることを、心から願っています。

 

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カテゴリ|心臓病

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