犬の肺高血圧症、実は「歯石・歯周病」から始まることも

循環器専門外来の獣医師 見上です。

 

「口が少し臭うけど、年齢のせいかな?」

そう思っている飼い主さんも多いかもしれません。しかし、歯石や歯周病は口の中だけの問題ではありません。近年、歯周病が原因で肺炎を起こし、さらに肺高血圧症へとつながるケースが報告されています。お口の健康が、愛犬の肺と心臓の健康に深く関わっていることをご存知でしょうか。

 

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中等度の歯周病

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重度の歯周病

 

 

歯周病が引き起こす「誤嚥性肺炎」のメカニズム

 歯周病が進行すると、歯ぐきの炎症部位から大量の細菌が放出されます。

これらの細菌は唾液と一緒に気道へ流れ込み、肺で炎症を起こす誤嚥性肺炎を引き起こすことがあります。

特に、高齢犬や、心臓病を持つ犬では咳反射が低下していることが多く、微量な細菌でも誤嚥しやすい状態にあります。

人医学・獣医学の研究でも、口腔内細菌と呼吸器感染症との関連が指摘されており、犬においても同様の病態が生じることが考えられます。

 

肺炎と肺高血圧症の関係

 肺炎などの慢性的な炎症が肺で続くと、肺の中の血管にダメージが蓄積されます。血管の壁は徐々に厚く硬くなっていきます。

この状態が進行すると、肺動脈を流れる血液に強い抵抗がかかり、肺動脈圧が上昇します。これこそが肺高血圧症です。

慢性炎症が肺血管の構造を変化させるメカニズムは循環器の研究でも明らかになっており、肺炎を繰り返すことで、最終的に心臓に大きな負担がかかるのです。

 

肺高血圧症とは?

 肺高血圧症は、「肺の血圧が異常に高い状態」です。重症化すると、心臓の右側(右心系)に大きな負担がかかり、以下のような症状が現れます。

  • 散歩を嫌がる、疲れやすい

  • 咳が続く、呼吸が速い(多呼吸)

  • 失神(目の前が暗くなり、急に倒れる)

  • チアノーゼ(舌や歯茎が青紫色になる)

これらの症状は、右心不全につながる重大なサインであり、循環器を得意とする獣医師医による早急な診断と治療が必要です。

 

「歯周病 → 肺炎 → 肺高血圧症」の流れ 

  1. 歯石・歯周病が進行し、口腔内細菌が増加

  2. 唾液や微小な食べ物と一緒に細菌が肺に入る(誤嚥)

  3. 肺で炎症(肺炎)が発生

  4. 慢性炎症により肺血管が傷つき、抵抗が上昇

  5. 結果として、肺高血圧症が発症・悪化

心臓病を持つ犬では特にこのリスクが高く、放置すると咳や呼吸困難が進行し、右心不全を発症させ、最悪の場合は突然死につながるリスクもあります。

「歯の汚れ」から始まった問題が、心臓の病気にまで発展し、愛犬の寿命を縮めてしまう可能性もあるのです。

 

 

予防と早期発見のポイント

1. 定期的な歯科ケアと歯石除去

 日々のデンタルケア・歯石除去・歯周病治療によって、口腔内の細菌量を徹底的に減らすことが、肺炎や全身炎症の根本的な予防につながります。

 

2. 咳や呼吸の変化を見逃さない

 疲れやすい呼吸が速いといった症状が出たら、心エコーや胸部レントゲンで肺と心臓の状態をすぐに確認することが重要です。

 

3. 慢性炎症のコントロール

抗菌薬や消炎療法に加え、必要に応じて肺血管を保護する薬(例:PDE5阻害薬)を使用します。

 

4. 循環器と歯科のチーム医療

歯科・循環器・呼吸器の視点から、全身をトータルで診ることが大切です。当院では、循環器認定医である私(見上)と定期的なデンタルチェックをする常勤獣医師が連携し、この複合的な問題に対応できる体制を整えています。

 

まとめ

歯周病は「口だけの病気」ではありません。肺や心臓の健康にも深く関わる全身疾患の一部です。

「最近、口が臭う」「咳をする」「疲れやすい」などの症状がある場合は、早めに歯科と循環器の両面からチェックを受けることをおすすめします。

 

お口のケアが、心臓を守る第一歩

定期的なデンタルチェックと、年1回の循環器健診をぜひご利用ください。

 

◆ 毎月3日間循環器専門外来を実施しています。
◆ 完全予約制です。事前にご予約をお願い致します。

カテゴリ|心臓病

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