バークレー便り

獣医師 石原卓士 自己紹介はこちら

ワンちゃんにもある熱中症

2013/09/09(月) いぬ

今年の夏は早く梅雨が明けた影響で、気温の高い日が長く続き、熱中症に罹る人が多く、中には亡くなられたという情報が多数ありました。

 数年前に当病院においても、多数のワンちゃんを飼育されていた愛犬家の犬舎において起こった出来事です。留守中に犬舎に設置されていたクーラーが故障し、5,6匹のワンちゃんが熱中症に罹り、直ちに当病院に搬送されました。オールスタッフで鋭意治療を行いましたけれども、助かったワンちゃんは2匹でした。残念でなりませんでした。

 

文芸春秋第91巻第9号に掲載されている横浜国立大学の田中英登教授の熱中症に因りますと、「熱中症」とは、高温の熱が体に入ることで起こる障害の総称で、具体的には「熱失神」「熱疲労」「熱けいれん」「熱射病」に分けられます。もともと人間の体には、体内に入った熱を外に逃す調節機能が備わっていて、その一つが皮膚の血管拡張。血液を送ることで熱を外に逃すわけです。が、あまりに急激に拡張すると、今度は血圧が低下し、脳に血液を送りにくくなる。すると低酸素状態になり、めまいや立ちくらみを起こしてしまう。これを「熱失神」といいます。ちなみに、この血管拡張が有効な気温は30度ぐらいまでで、それ以上になると「発汗」で熱を放散します。このとき、汗として排出される水分が体重の2%を超えると脱水症状となり、「熱疲労」をきたす危険も。これを防ぐ唯一の手段が、水分補給です。ただし、発汗時は水分と同時にナトリウムも放出するため、水を飲むことでさらにナトリウム濃度が低下すると筋肉が収縮し、「熱けいれん」を起こす場合もあります。そうした事態に備えて、スポーツドリンクを用意しておくといいでしょう。以上の3症状はすべて熱中症の初期症状です。このときに手を打たずに放っておくと、やがて「熱射病」へと進行します、と簡明に説明しておられます。

 このように、人間も動物も熱中症に罹ります。家の中あるいは散歩中においても絶えずワンちゃんの状態を注視しておいてください。自分は大丈夫と思っていてもワンちゃんは悲鳴をあげているかもしれません。朝晩は涼しくなってまいりましたが、油断は禁物です。冷房の利かないところでのお仕事やスポーツをおこなっておられる方は、彼岸までは残暑が厳しい日もありますので体調に十分気を付けてください。

参考ですが、2013年9月1日付の朝日新聞によりますと、今夏、熱中症で運ばれた人が5万3739人(5月27日~8月25日の速報値、総務省消防庁調べ)にのぼった、と報道されています。

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