バークレー便り
今回は、神戸大学で開催された「人の糖尿病診療セミナー」に参加してきました。
2006年に「神戸大学大学院医学部研究科:免疫内科」で博士号を取得し、定期的に神戸大学のセミナーに参加してきましたが、今回は久しぶりの参加となりました。
人の医療は獣医療とは比べ物にならないほど、先に進んでおります。
すぐに獣医療に役立つかはわかりませんが、人の医療での考え方や、治療に対するアプローチの仕方は大変参考になります。
合併症制御を中心に考えた糖尿病治療セミナー
■日時:8月30日(水)
■会場:神戸
■講師:島根大学医学部 内科学講座内科学第一 教授 金崎 啓造 先生
■内容
人の糖尿病の合併症制御を考えた治療法について解説していただきました。
犬猫の糖尿病
今回のセミナーには関係ありませんが、犬猫の糖尿病についてご紹介します。
糖尿病とは
血糖値をコントロールするために大きな働きを担っているのが膵臓です。膵臓には「ランゲルハンス島」と呼ばれる細胞群があり、そこから分泌されるインスリンというホルモンは、血糖値を低下させる働きを持ちます。
糖尿病とは
①インスリンが足りない
②インスリンが正常に働かない
ことにより、血液中の糖が増える病気です。
通常、血液中の糖はインスリンにより細胞内に取り込まれ、各臓器を動かすエネルギーとして働きます。しかし、糖を取り込むことができないと、血液中の糖の濃度は増え、逆に細胞内の糖は枯渇するという状況になります。
ワンちゃんの糖尿病では、膵臓が働かなくなりインスリンを作れなくなることが多く、注射によるインスリン投与が必要になります。人の糖尿病でいう1型糖尿病によく似ています。
糖尿病にかかりやすい犬種として、トイ・プードル、ミニチュア・ダックスフンド、ミニチュア・シュナウザー、ミニチュア・ピンシャー、ジャックラッセル・テリアなどが挙げられます。ただし、これらの犬種以外でも発症する可能性はもちろんあるので、注意が必要です。
ワンちゃんの糖尿病はインスリンを作る膵臓の細胞が機能しなくなり、生成できなくなることが原因です。膵臓の細胞が機能しなくなるきっかけとして、クッシング症候群や避妊手術をしていないメスの黄体ホルモン分泌、免疫介在性疾患などがあげられます。また、肥満も一つの要因です。
一方で、猫ちゃんの糖尿病はインスリンが出ているが不足している、もしくは、インスリンが出ているが身体が反応しないという場合が多いです。
適切な食事療法を行うことで、体内のインスリンが十分に分泌されたり、機能したりすることで、注射によるインスリン投与が将来的に不必要になることもあります。人の糖尿病でいう2型糖尿病によく似ています。
不適切な食事(低タンパク質、高炭水化物な食事)、肥満、膵炎、ウイルス感染、クッシング症候群などが、糖尿病の原因となることが多いです。
※人の糖尿病※
■1型糖尿病
膵臓(すいぞう)がインスリンを作れなくなってしまうことにより糖尿病になります。そのため、インスリン注射が必要です。
■2型糖尿病
生活習慣や遺伝などにより、膵臓からインスリンが出にくくなったり、インスリンは出ているものの作用しにくくなったりすることにより糖尿病になります。食事療法、運動療法、血糖値を下げる薬、場合によってはインスリン注射により治療されます。
糖尿病の症状
- 水を飲む量が増える
- 尿が増える
- 毛づやが悪くなる
- 痩せてくる
- 元気消失
- 嘔吐・下痢
- 脱水
など
糖尿病を発症しているときに、糖尿病性ケトアシドーシスという緊急を要する病態に陥ることがあります。食欲低下、元気消失、脱水などの症状が見られます。細胞がエネルギーを得るために糖の代わりに脂肪を分解しますが、そのとき作られるケトン体が増えすぎることが原因です。早急に適切な治療を行わないと命に関わることもあり、点滴を流しながらの入院治療が必要です。
糖尿病の合併症リスク
糖尿病は他の合併症を生じるリスクも持ち合わせています。
・糖尿病性ケトアシドーシス
・糖尿病性白内障
・腎臓や肝臓の機能への影響
・細菌などに対する抵抗性が低下して感染症に罹りやすくなる
糖尿病の診断
①血液検査
持続的な高血糖が認められます。そのほかにも、高脂血症や低ナトリウム血症、高カリウム血症などが確認されることがあります。
②尿検査
持続的に尿中に糖が出ます。
上記の検査により糖尿病が確認されたら、インスリン抵抗性を引き起こしている原因を調べるため、レントゲン検査やエコー検査を行い、肝臓や膵臓、腎臓などの状態を確認します。
糖尿病の治療
①インスリン治療
欠乏しているインスリンを補うためにインスリン注射を使用します。インスリンにはいくつかの種類がありますが、個体に合わせて適切な種類を選択したうえで、投与量を設定し、定期的に血糖値の変動が安定しているかをチェックします。
インスリンは、原則1日2回注射することが最も多いケースとなります。また、インスリンを投与する時間帯はできるだけ固定することが望ましいです。毎日注射が必要なので、飼い主さん自身が注射を行うことが多くなります。
②食事療法
繊維質を多く含み、食事後に急激に血糖値が上昇しないような配慮がされています。
③適度な運動
糖尿病の犬では毎日適度な運動を行うことが必要です。適度な運動により血糖値が下降しやすくなります。
④輸液治療
糖尿病によって高血糖状態が続くと腎臓の浸透圧利尿作用によって尿量が増加します。本来、体内でとどめておかなくてはならない水分が余分に排泄されることとなるので、必要に応じて輸液による治療を行うことがあります。
糖尿病の予防法
①適正な食事と運動
糖尿病の要因の1つとして肥満があります。適度な運動と食事を心掛け肥満にならないように注意しましょう。
②避妊手術(犬)
女の子のワンちゃんの場合、避妊手術を受けることで糖尿病になりにくくなります。
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